たぼうにつき絵日記はのちほど……!!
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ある夏のことです……。
わたしはその時、ある、護摩行と厄除けで有名なお寺のお護摩に行くのがマイブームでした。
お護摩とは、お寺の薄暗い御堂で行われる、太鼓とお経と焚き火のお経ライブのようなものです。
お経は読経専門のお坊さん(人数はその時により異なる)と、参拝者で唱えます。
私の行っていたお寺は人気で、焚き火のためか、護摩の行われるお堂は地下から一階までの2フロア分の高さがあります。
参拝席は階段状の席に座りますが、メインボーカル……じゃない、お坊さんの目の正面の席は上から下までと、前の方の席はすぐに埋まってしまいます。
参拝席が満員の場合は、参拝席の階段(広め)や、近くの廊下に座る方もいます。
お護摩の時間は30分ほどで、まずお坊さんの説話があり、次にお経の順番です。
わたしはその時、お坊さんのお護摩が始まる前、と、すこし遅れての参加でした。
お堂に入り、空いている席を見渡します。
晴天の日曜日の昼近くとあり、お堂はほぼ満員です。
廊下に座っている方々もいて、
「今日は出遅れちゃったな……」
と、通路に座ろうかと見渡したその時です。
1番上の列、真ん中より二つほどずれたところに、ひとつだけ空いている席がありました。
ワオ、ミラクル……わたしの日頃の行いが良いからかしら?!
などと、内心舞い上がって、静かにその席に腰掛けました。
1番上の列、ほぼ真ん中の席のため、お護摩の煙や、太鼓を叩くお坊さんの様子が見えて良かったです。
参拝者とのお経の合唱も心地よく、その回もまたいいライブ……お護摩でした。
これから参道でお団子買って帰ろうかなと思いつつ、席を立つと、
「今日は金の龍と白い龍がいたね」
と、右側から話しかけられました。
わたしはどちらかと言うと道を聞かれるタイプです。
帽子!
メガネ!
マスク!
日傘!
真夏だけど日焼け防止にUVカット長袖パーカー(黒)!
と、UVと人を寄せ付けにくい格好をしても、有楽町の交差点で、他にたくさん人がいようと声をかけられたこともあるわたくし。
背が低いために威圧感がないから……?!
接客業の経験があり、人に急に話しかけられても平気なため、
「そうなんですね〜」
と、右を向きながら返します。
白髪の、背の曲がった小柄なおじいさんでした。年齢はおそらく80代でしょうか。
「そうなんだよ〜。でもね、いつも龍が見えるわけじゃないんだ。お坊さんの霊格が高くないと見えないんだよ」
何回かお護摩に来ていますが、毎回、お坊さんやお坊さんの参加人数が違います。
この日は、袈裟がカラフルなお坊さんがメインで、サブのお坊さんがいる、お坊さんが多い日でした。紫、黄色、緑など、歌舞伎揚っぽいカラーリングです。
カラフルなお坊さんの階級が高いことはなんとなく分かります。
「どんなふうに見えるんですか?私も見てみたいです」
と尋ねると、
「煙の上にねぇ、顕れるんだよ」
とのこと。
くるくる回っていて、お護摩が終わるといなくなるそうです。
「ヘェ〜いいですね」
「僕があなたに話しかけたのはね……」
いきなり話が変わりましたので、内心驚きました。
「あなたの後ろの人にね、話しかけて欲しいと言われたからだよ」
!?!?
どうしよう、このお爺さん、実は私だけに見えてるとかそう言うオチだったら怖い……
と、私が心霊体験か疑っていたその時です。
バリィ!バリバリバリバリバリ!
と、聞きなれた音がしました。
マジックテープです!
おじいさんは膝のサポーターを付け直していたのでした。
えっ、マジックテープ何?!
お堂静かだからめちゃ響いとる!
人間だった!ワーイ!
という三つの思考が流れました。
ひとまずは生きている人間で安心……!
しかし!
「あなたの後ろの人って何?!」
と言う混乱が襲ってきました。
私が
「私の後ろの人ってなんですか」
とそのままの疑問をおじいさんに投げかけると、
「昔の薬売りの行商の若い女性だよ〜。この方は真面目だねぇ。あなたに伝えたいことがあるって」
とのこと……。
なんなの、怖いよぉ〜。
と、内心はびびっていると、
「なんかいい言葉」
を言われました。
よく覚えていません。
たしか、そんなに真面目にしなくていい、みたいな言葉だったと思います。
わたしは後ろの方のお言葉より、おじいさんの方にびっくりしたことの方が大きかったのです。
人間かそうでないか。
怖がりのわたしには、それが重要でした。
おじいさんは、後ろの方の話を伝えると言いました。
「ここの、金運のお守りは、効果があるよ。買っていくといいよ」
いきなり俗っぽい話が出たので、わたしは再度、
「ああ、おじいさんはやっぱり人間だった」
と安心しました。
そしてお守りに興味が出ました。
「宝くじでも当たったんですか?」
「人に貸してた七万円が戻ってきたの」
リアルな金額です。
ここで100万円と言われたら、何らかの勧誘と思ってそそくさと離れたでしょう。
「知り合いに貸して、なかなか帰ってこないからもう戻ってこないと思ってたんだけど、ここでお守りを買って1週間くらいで、急に返してくれたの」
貸したお金は返ってこないのが通説……!
「そのお守り、買いますっ!」
私は言いました。
「500円でねぇ、指輪の形をしてるの。お財布に入れておくといいよぉ〜」
私はお堂から1番近いお守り売り場を確認しました。
この後、そのお守り買う!
おじいさんは言いました。
「他にもいいお守りがあるの。50円ですごく安いけど。穴場のお守り」
「どんなお守りですか?」
私は食い気味に聞きました。
「童子さまのお守りなんだけど、机の前に貼ってたら、ある日、夢の中でそこから黄色い煙が出てきたの」
「煙が」
「そうなの。うっすら橋の上に立ってるのが分かって、進んでいくと、なんか綺麗な宮殿、朱色の、沖縄みたいな感じのものが見えたの。でもそっちに行けなかったの。多分天国だと思う」
これ、いい話……?!
混乱していると、おじいさんはつづけました。
「別の日に昼寝をしていたら、黄色い煙がまた出てきたの。煙の中にうっすら、長ーい階段が見えたから、登っていくと、上の方で亡くなった知り合いとか家族が見えたの」
「ふむふむ」
「そしたら、まだこっちにきちゃダメだ〜、って言うから登るのをやめたの」
臨死体験じゃん……!
「童子さまのお守りは、入り口の販売所でしか売ってないからお店の人に聞くといいよ」
怖がりなくせに、好奇心は旺盛な私は、
そのお守りも買おう
と、思いました。
おじいさんにお礼を言うと、おじいさんは
「じゃあね。僕この後、隣の公園でお弁当を食べて帰るんだ」
と、出口に向かって歩いていかれました。サポーターをつけかえるのもなっとくの、ゆっくりしたスピードでした。
私はトイレに行き、すぐ指輪のお守りを購入!
敷地の入り口近くの販売所で
「50円の、紙のお守りをください」
と言いました。
「?」
スタッフさんは、ベテラン感のある女性です。
どうして……?
わたしは混乱しました。
あのおじいさん、本当に人間なの?
本当に人間が買えるお守りの話だったの?
などなど、怖い考えが浮かびます。
あ、隣の公園に行ってみよう!
おじいさんにもう一回聞いてみよう!
と、思い初めて隣の公園に行きました。
広いです。
おじいさん……え、いない?
あのスピードだと、公園にたどり着くくらいなはずなのに。
どうして……!?
真横近くを再度見ると、ベンチにおじいさんがいらっしゃいました。
視界に入っていなかっただけでした。
ちゃんと人間だったので安心しました。
おじいさんはバッグをベンチに下ろし……これからお弁当を出すところでした。
わたしは一瞬迷いましたが、お弁当を開けまる前なのでセーーフ!と言うことにして、ちょっとだけ話しかけることにしました。
「すみません、50円のお守りですが、もう一回教えていただいても宜しいでしょうか?販売所で買えなくて……」
「じゃあ、一緒に行ってあげるよぉ」
「えっ、すみません、お昼食べるところに」
「いいよぉ」
おじいさんと境内にもどります。
「こんにちは〜」
おじいさんが販売所でスタッフさんに声をかけます。
「○○さん、こんにちは〜どうしました?さっきも来ましたよね」
販売所のスタッフさんと顔パス……!?
何者……!?
しかし、またもや生身の人間であると認識できて安心しました。
おじいさんがスタッフさんに○○のお札〜と説明してくれました。
それで、スタッフさんは、!と言う顔になり、
「あーあのお札ですか」
お守りじゃなくない?
と思いつつ、2種類あるとのことで2枚とも購入しました。
「ありがとうございます」
と、おじいさんにお礼を言い、境内の入り口までご一緒します。
おじいさんは、
「じゃあね」
と言って公園に向かって行きました。
わたしはその姿を少し見送り、
ほんとに生きてる人だったな
と、再度、確認して帰路につきました。
なお、後日談として金運アップ!不思議体験!はありませんでした。
わたしはビビリなので、不思議体験は何かあっても怖がったと思うので、なくても良かったかと思います。
金運は、困っている人にはいいことあるかも?と言う感じなのかもしれません。
その後はなんとなく、護摩に行く足が遠のいたので、不思議なおじいさんにはお会いしていません。
厄除けで有名なお寺だけあり、数年後に病気の心当たりのない謎の体調不良が2週間続いた時に行ったら、一回で体がスッキリしたので、あの時のおじいさんの話は本当なんだろうなと思っています。
終